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「はちやさん」の音楽教室

「蜜蜂と遠雷」で思い出したこと

里山のピアノ教室へ

通うようになって

オーナーさんのおばあちゃんと
仲良くなった。


レッスンが終わると
離れの戸締まりと電気を確認して
母屋の方へご挨拶に伺う。

すると、おばあちゃんが

 
「まあ、お茶でも一杯どうですか?」
 
とすすめてくれ、
そしてお茶菓子を探しに
肌電球の薄暗い板の間へ向かった。
 
 
おばあちゃんは、
長年農業に従事してたらしく
腰が深く曲がっていて、
背丈が小学校低学年のようだった。
 
 
奥の茶箪笥は、
おばあちゃんの背丈より
とても届きそうにないくらい
ずっと高い。
 
一瞬手伝おうかと躊躇したとたん
曲がった腰をぐいと伸ばし、
お菓子の箱を取り出したので
私はたいそうびっくりした。
 
古い母屋には棚がいっぱいあり
広いお宅で
独り暮らしのおばあちゃんは
どうやって物を出し入れしているのかと
私はずっと疑問だったのだ。
 
それ以来ひそかに
「くノ一(くのいち)ばあちゃん」
と呼んでいた。
 
くノ一ばあちゃんは、時々
野菜や果物、柿や栗などを
帰り際に持たせてくれた。
私は、お返しに
お菓子などをおすそ分けした。
 
ある晩秋、
レッスンの後いつものように
お茶をごちそうになっていると
 
「寒くなると、はちやさんが来るよ」
と言った。
 
「ハチヤさん?」
なんだろう?ハチヤさんって?